嫁ぐ娘への親ごころ

従姉妹の結婚式直前、

花嫁の父である叔父が、
こう話していました。

 

「みんな『おめでとう』って、
 言ってくれるけど、
 何がおめでたいのかわからない」と。

 

娘が嫁ぐ日…

 

父親の想いは、
とても複雑なのだと知りました。

 

嬉しいけど、寂しい…

そんなやるせない想い、
どうしたら良いのでしょうか?

 

ある披露宴で、
お父様が開宴中に、
メモを持って来られました。

 

くちゃくちゃになった紙に、
ぎっしりと文字が書かれていました。

 

「これ、テキトーに、
 言ってもらえませんか?」と。

 

そこに書かれていたのは…

 

娘が生まれた時の想い、
成人式を迎えた時の想い、
彼を紹介された時の想い、
そして、
今日家を出る娘を、
見送った時の想い…でした。

 

こんな大切な想いを乗せた言葉を、
テキトーになんて、
ご紹介できないと思いました。

 

開いては閉じ、
また開いては読み返し、
そして、握りしめ…

 

それで紙は、
くちゃくちゃになってしまったのだと、
想像できました。

 

お父様に、こうお伝えしました。

 

「お父様が直接、
 お嬢様に伝えてあげてください」と。

 

お父様は、
「もう酔っ払っちゃってるし、
 新婦の父親が喋るのおかしいし、
 本当にテキトーでいいから…
 お願いしますよ」とのお返事。

 

でも、
このお父様なら大丈夫と判断し、
私は強行手段に出ました。

 

新婦のお色直し退席時、
エスコート役のお父様が、
高砂前までお越しになりました。

 

新婦も高砂席から、
お父様の近くまで移動されました。

 

その瞬間、
お父様に、先程の紙とマイクを渡し、
「お願いします。
 頑張ってください」と囁きました。

 

一瞬、睨まれた…?かも知れませんが、
覚悟を決めたのか、
お父様は、

マイクをぎゅっと握りしめました。

 

そして、
一言ひと言噛みしめるように、
メモを読み始めました。

 

東北地方のお国言葉で…

 

   ♡

 

お色直し退席後、
お二人を追いかけました。

 

無茶振りを、

お詫びするために…。

 

すると扉の外で、
お父様と新婦は号泣していました。

 

お母様もご一緒でした。

 

お声を掛けられずにいると、

私に気付いたお父様は、
私の手をしっかりと握り、
泣きながらこうおっしゃいました。

 

「ありがとう。
 本当に、

 ありがとうございました…」と。

 

   ♡

 

「大きくなったら、
 パパのお嫁さんになる!」

 

そんな嬉しいことを言ってくれた娘。

 

でも、
パパのお嫁さんになんて、
絶対になれるはずないのです。

 

そんなの、
誰もがわかってること。

 

わかっているけど、
寂しいんです。

 

彼はいい人だけど、
パパ自身じゃない。

 

本当に幸せにしてくれるのか、
心配なんです。

 

おめでたいことだけど、
おめでとうって言えないんです。

 

   ♡

 

新郎新婦の新たなスタートの日は、
新郎新婦のご両親にとって、
一つの修了式でもあります。

 

寂しい気持ちが湧き上がっても、
何ら不思議ではありません。

 

それほど愛してきた、
可愛い息子・娘の、
巣立ちの日なのですから…

 

でも、
その想いを伝えることができたら、
心の底から、
「おめでとう」の言葉が、
湧き上がるかもしれません。

 

寂しい気持ちも、

ちょっぴり和らぐかもしれません。

 

そしてきっと、
大切な息子さん・お嬢さんにとって、
素晴らしい巣立ちの日になることでしょう。

 

 

※本文中の内容は、

  事実に基づくフィクションです。