相手の両親への、
初めてのご挨拶や結婚報告。
緊張したという人が、
圧倒的に多いようです。
でも、
もしかしたらご両親の方が、
緊張しているかもしれません。
千花さん(仮名)は大学時代、
ファミリーレストランで、
2年間アルバイトをしていました。
新郎とはそこで出逢ったのです。
彼はそのアルバイト先の副店長でした。
千花さんが大学を卒業し、
お客様としてその店を訪れての再会から、
交際に発展したという経緯でした。
お互いのことをよくわかった上で、
交際をスタートさせたことから、
初めから結婚を前提としたお付き合いでした。
♡
交際開始から3年ほど経ったある日のこと、
千花さんはお父様から、
「彼氏がいるなら、
ちゃんと家に連れて来なさい」
そう言われました。
彼と付き合っていることは、
お母様にそれとなく伝えていましたので、
お父様にも話が伝わったのでしょう。
しかし、
結婚を考えているということまでは、
お母様にも打ち明けていませんでした。
いずれ通らなければならない道。
この機会に、
ちゃんと彼のことを紹介し、
結婚を認めてもらおうと思いました。
彼も自分と同じ意見だったことから、
2週間後に彼が、
千花さんの家を訪れることになりました。
♡
彼は千花さんより8歳年上の、
しっかりとした大人の男性です。
職場でも責任あるポストにつき、
人格も穏やかで優しく、
心配なことは何一つありませんでした。
しかしその話が出た時から、
彼は緊張していたのです。
「お父さんの趣味は何?」
「どんなテレビ見てる?」
「お父さん優しい?怖い?」
「お母さんはどんな人?」
「俺のこと、どこまで話しているの?」
千花さん対し、質問責めです。
ご両親との会話を円滑に進めるため、
彼のリサーチが始まったのです。
そして、
「当日は、何を着ていけばいいかな?」
「『結婚を前提にお付き合いさせてください』
でいいのかな?
あっ、でももう交際は知っているわけだし、
やっぱり、
『お嬢さんをお嫁にください』かな?」と…。
♡
一方、お父様はというと…
「大事な娘を嫁にやるんだから、
ちょっとやそっとの男だったら、
絶対に認めないからな!」
「俺の目は厳しいぞ!」
「気に入らないところがあったら、
ビシビシ指摘してやる!」
そう言いながらも、お母様には…
「俺は最初どこにいればいいんだ?」
「俺から先に何か言った方がいいのか?
向こうから話してくるのを待つべきか?」
「食事はどうするんだ?」
「やっぱりお酒を勧めた方がいいか?」
明らかに緊張している様子が伺えます。
いえ、動揺しているという言葉の方が、
適切かもしれません。
♡
そして迎えた当日…
玄関チャイムの音にドアを開けると、
そこには、顔がひきつり、
身体全体が固まったように緊張した、
スーツ姿の彼が立っていました。
朝から頻繁にトイレへと通っていた父親は、
リビングで新聞を読んでいるフリをしながら、
平常を装っていました。
「お邪魔します」
そう言ってギクシャクしながら部屋に入った彼。
「初めまして。
千花さんと交際をさせていただいております…」
と言いかけたその時、
お父様がその言葉を遮りました。
「まあまあ、堅苦しい挨拶はいいから、
座って、座って…」
満面の笑みで彼を迎え入れたお父様。
お父様が彼を気に入ったことは、
一目瞭然でした。
もちろんお母様も同様で、
心から嬉しそうにニコニコ笑っていました。
「ビシビシ指摘してやる!」
そう息巻いていた厳しい父親は何処へやら、
お父様の目尻は下がりっぱなしでした。
そして彼のリサーチも功を奏し、
話は大いに盛り上がり、
まるでもう彼が家族の一員となったかのように、
和やかな雰囲気が出来上がっていました。
♡
千花さんは一人っ子。
娘を嫁に出すという寂しさなどすっかり忘れ、
待望の息子ができたと、
ご両親は大喜びしていたようです。
挙げ句の果てには…
「本当に千花で良いの?」
「断るならまだ間に合うよ」
「やめるなら今のうちだよ」
いつのまにか千花さんではなく、
彼を心配する言葉が飛び交い始めました。
「彼を気に入ってくれたのは嬉しいけど、
もう少し私のことを、
心配してくれてもいいのでは?と、
ちょっぴり複雑な気持ちになりました」
千花さんは笑いながら、
あの日をそう振り返っていらっしゃいました。
♡
ご両親へのご挨拶や結婚報告は、
誰しも緊張するものです。
特に相手の女性が一人っ子の場合、
恐れや不安を抱いている男性も、
少なくないことでしょう。
しかし、一人っ子なんて珍しくない時代、
「息子ができた」
「娘ができた」
そう喜んでくださるご両親も、
とても多くいらっしゃるようです。
結婚とは、
相手のご両親から息子や娘を、
奪うことではありません。
二人で新しい家庭を、
作っていくということです。
案ずるより産むが易し。
愛する人との結婚を考えるようになったら、
先延ばしにせず、
誠意を持ってご両親に想いを伝えて欲しい…
ご健闘を心からお祈りしています。
※本文中の内容は、
事実に基づくフィクションです。