自分で決めたはずのことが、
実は計画されたことだった。
自分で選んだ人が、
実は親に選ばれた人だった。
あなたにはそんな経験、
ありませんか?
金曜、夜11時、
遊里子さん(仮名)の電話が鳴りました。
またか…
案の定、
電話は母親からのものでした。
遊里子さんのお母さんは、
バリバリのキャリアウーマン。
そんな母を尊敬し、
「私もお母さんみたいになりたい」と、
働きながら資格取得の勉強に励んでいました。
そんな遊里子さんですから、
金曜日の夜でも家にいることがほとんど。
つまり、
恋人がいるわけでもなく、
同僚や友人と飲みに行くわけでもない、
ということです。
母親もそれをよく知っているからこそ、
電話をかけてくるのです。
要件は決まっていました。
「遊里子ごめんね。
迎えに来て。お願い」
いちいち呼び出さなくても、
バスかタクシーで帰って来ればいいのに…
そう思ってはいたものの、
結局いつも迎えに行っていました。
♡
そんなある日、
金曜、夜11時ではなく、
金曜、夜9時に、電話が鳴りました。
時間は違いましたが、
要件は一緒でした。
迎えに来て…と。
しかし、迎えに行くと、
「これからカラオケに行くから、
遊里子も一緒に行こうよ〜」
そう言われました。
メンバーは、
お母さんの同僚や部下たちです。
迎えに行くたびに会っているため、
顔くらいは知っていますが、
だからと言ってカラオケに同行するほど、
親しいわけではありません。
はっきり言って、
行きたくありません。
一緒に行く理由もありません。
「一旦帰って、
また迎えにくるの大変でしょ?
だったら、一緒に行こうよ〜」
無茶苦茶な理由です。
まあでも、お母さんの言う通り、
一旦帰ってからまた来るのも面倒くさいし、
断るのもみんなに失礼かと思い、
仕方なく同行することにしました。
♡
みんなが気を遣ってくれたこともあり、
遊里子さんは一人部外者でありながら、
疎外感に包まれることもなく、
そこそこ楽しく過ごすことはできました。
しかし、帰りの車の中で、
「もう、二度とイヤだからね。
絶対にもう行かないからね。
こんなことするなら、
迎えにも行かないからね!」
そう、強く抗議した遊里子さんでした。
♡
そんなことがあったためか、
ここ1ヶ月ほど、金曜の夜でも、
お母さんは飲みに行ったりせず、
バスで早めに帰宅するようになりました。
遊里子さんも、
勉強に集中できるようになりました。
でもそれは、
嵐の前の静けさだったのです。
♡
「今度の土曜日、
会社の人たちが家に来るから」
突然、お母さんが言い出したのです。
ご近所の人や友人が家に来るのは、
そう珍しいことではありませんでしたが、
会社の人を家に招くことなど、
これまで一度もありませんでした。
別に反対する理由はありませんでしたが、
「来るのはいいけど、
私は参加しないからね」
一応そう念押ししておきました。
しかし…
実際には、
そういうわけにもいきませんでした。
♡
その日をきっかけに、
月に1度ほどの頻度で、
会社の人たちが訪れるようになりました。
遊里子さんも、
だんだんみんなと仲良くなり、
お父さんも楽しそうに過ごしていました。
♡
そんなある日、メンバーの一人から
「チケットを貰ったのだけど、
よかったら一緒に行かない?」と、
映画に誘われました。
ちょうど観たいと思っていた映画でした。
お母さんの方を見ると、
「いいじゃない、
せっかくだから行ってくれば?」
そう言われました。
誘ってくれた相手は男性でしたが、
お母さんの部下であり、
心配なことは何もないだろうと、
お誘いを受けることに決めました。
♡
そして当日。
映画を観て…
食事をして…
次の約束まで交わして…
遊里子さんと彼との、
お付き合いが始まりました。
♡
実は、
全てがお母さんの計画通りでした。
振り返れば、
金曜夜のお迎えとともに、
このストーリーは始まっていたのです。
仕事も優秀で、
人柄も良い彼を、
上司であるお母さんがとても気に入り、
「彼と娘を結婚させたい!」
そう思ったのだそうです。
もちろん遊里子さんも彼も、
そんなことは全く知りませんでした。
顔見知り程度から始めて、
カラオケ、
ホームパーティーと、
徐々に親しくなっていけば、
彼と娘は自然と結ばれるだろう、
そうお母さんは考えたのです。
お父さんはそのことを知っていました。
家に招いたのも、
お父さんに彼を見て貰うチャンスを、
作りたかったという理由もありました。
あの時お父さんが嬉しそうにしていたのは、
お父さんもまた、
彼のことを気に入ったからだったのです。
♡
遊里子さんと彼がこのことを知ったのは、
結婚式の3ヶ月前のことでした。
♡
「お見合い」のような形を取らなかったのは、
お母さんと彼が、
上司・部下の関係だったからです。
どちらかが気に入らないという可能性も、
無いとは言えないため、
その場合、部下に気まずい思いを、
させてはいけないという思いやりでした。
自然と二人が恋愛できる環境だけを作り、
あとは二人の気持ちに任せるという手法、
あなたは、どのように感じましたか?
もしかしたらあなたの人生も、
あなたを想う誰かの計画に、
導かれているかもしれません…。
※本文中の内容は、
事実に基づくフィクションです。