男女が交際するきっかけなんて、
どこに潜んでいるかわからないものです。
そして、
後悔するような出来事も、
幸せの始まりだった、
ということだってあるものなのです。
千尋さん(仮名)が、
これまで一番印象に残っている思い出と言ったら、
中学時代の遠足のこと。
行き先は山でした。
千尋さんはソフトボール部のキャプテンで、
明るく元気いっぱいの女の子。
そしてお転婆少女でもあり、
遠足の日もテンションが高く、
木に登ってみたり、
わざわざ危ないところを歩いたりと、
かなり危ない行動を重ねていました。
そして…
岩の上に乗って写真を撮ろうとしたその時、
ツルンと足を滑らせてしまったのです。
あっ!
気がついたのは病院のベットの上でした。
心配そうに覗き込む、
担任教師の姿が見えました。
先生の話によれば、
あの大きな岩から落ちた瞬間、
気を失ってしまったようです。
ここまで救急車で運ばれたとのこと。
「気を失って良かったと思うよ」
先生は千尋さんの足を指差し、
そう言いました。
「骨折してるから…」
「気を失っていなかったら、
きっと大騒ぎしただろうね」と。
あーあ、
せっかくの遠足だったのに、
先生にもみんなにも、
迷惑かけちゃったな…。
骨折か…
ソフト部のみんなにも、
当分迷惑をかけることになっちゃうな…。
後悔と、反省と、申し訳なさで、
泣きたい気持ちでした。
♡
数日後、
登校した千尋さんは、仲良しの友人に、
「彼にお礼言った方がいいよ」
そう言われました。
「彼」とは、クラスの男子で、
サッカー部の部長でした。
「何で?」
と聞くと、
「えっ?
あっそうか、覚えていないんだね」
そう言って理由を話してくれました。
あの岩から落ちた時、真っ先に駆け寄り、
大声で担任を呼んでくれたのが、
彼だったのだそうです。
そして救急車を呼んだ場所まで、
おぶって運んでくれたのだとか。
えっ…
私、あいつにおんぶされちゃったんだ…。
「彼、すっごくかっこ良かったよ。
みんなただ見てるだけだったのに、
彼の行動は本当に素早くて、
さすがサッカー部の部長って感じだった」
ありがたい気持ちよりも、
恥ずかしさでいっぱいになりました。
「あの…ありがとう」
そう伝えると、
「無理すんなよ」
彼は千尋さんの方ではなく、
窓の外を見ながら、
ぶっきらぼうにそう言いました。
♡
千尋さんは骨折をしてしまったため、
もちろん部活には参加できません。
でも、せめて見るだけでも…と、
毎日みんなの練習を見学をしていました。
部活が終わり下校する千尋さんの横には、
千尋さんのカバンを持った彼が、
毎日一緒でした。
♡
あれから10年。
花嫁となった千尋さんの隣には、
あの時と同じように、
彼の姿がありました。
♡
まだ中学生だった二人。
そんなに若くても、いえ、幼くても、
将来の結婚相手を見つけちゃうなんて、
本当に凄いなあと感じました。
もちろん、
中学時代にこの人と結婚しようと、
思ったわけではありません。
でも、いつも一緒にいることが、
ごく自然だったのだそうです。
友達から恋人へ、
恋人から夫婦へと、
年月とともにその形が、
自然と変化していっただけ。
お二人はこれからも、
順風満帆の人生を、
歩んでいかれることでしょう。
そう、
きっといつも自然体で…。
※本文中の内容は、
事実に基づくフィクションです。