ローマ神話に出てくる恋の神クピド。
英語名を、
キューピッド(Cupid)と言います。
あなたはキューピッドの存在を、
信じますか?
キューピッドが放った矢に当たった者は、
恋心を起こすと言われていることは、
あまりに有名です。
つまりキューピッドは、
恋愛成就の手助けをしてくれる
神様なのです。
♡
京介さん(仮名)は、25歳。
おとなしく、
生真面目なタイプの男性でした。
彼には高校時代、好きな女性がいました。
しかし自分の想いを伝えることもできず、
ただ遠くから彼女を見つめているのが
精一杯でした。
彼女と再会したのは、
卒業から1年後のクラス会でのこと。
高校時代と全く変わらない、
彼女の可憐な笑顔を見て、
思い切ってこの想いを打ち明けようか…
そんな気持ちになりました。
ところが、
すぐに彼女の身体に異変を感じました。
そう、彼女は妊娠していたのです。
すでに結婚し、
4ヶ月後にはママになるそうです。
告白はしていませんが、完全なる失恋。
ショックでした。
「クラス会、行かなきゃ良かった…」
そう落ち込むばかりで、
彼女を祝福してあげようという、
心の余裕はありませんでした。
でも、
結婚してしまった彼女に、
どうすることもできません。
この恋は、
諦めるしかありませんでした。
♡
それから2年、
もう彼女を思い出すことも、
ほとんどなくなった頃のことです。
「京介くん!」
自宅近くの駅で、声をかけられました。
振り返ると、そこには、
子どもを連れた彼女の姿がありました。
まだ学生である自分と比較し、
彼女はとても大人っぽく見えました。
「幸せそうだね」そう言うと、
「うん、
この子が生まれてきてくれたから、
とっても幸せ」と。
しかし、
なんとなくですが、
笑顔に寂しさが含まれているような、
そんな気がしました。
「今度、一緒にご飯でも行こうよ。」
これまで彼女の前では緊張して、
話すことさえままならなかったのに、
この時には不思議と、
自然にそんな言葉が口をついて出ました。
「子ども、一緒でもイイかな?」
「もちろんだよ!」
それから1週間後、
駅前のファミレスに3人の姿がありました。
そこで彼女からこう打ち明けられたのです。
「実はね…
離婚しちゃったんだ…」と。
こんな小さな子どもを抱え、
これから彼女は
どうやって生きて行くのだろう…?
「また一緒にご飯食べようよ。」
京介さんは、そう言うのが精一杯でした。
「子ども連れてるとね、
外に出るのって色々と大変で…。
だから、次は家に来ない?」
そんな彼女の言葉に従い、
次は家にお邪魔することとなりました。
一人暮らしの彼にとって、
彼女の手料理は温かく、
とても幸せな気持ちになりました。
それをきっかけに、
その後も時々ですが、
彼女の家に立ち寄るようになりました。
大学を無事卒業し、社会人となっても、
それは変わらず、続いていました。
そして次第に、
そこはとても居心地の良い場所と、
なっていったのです。
でも、だからと言って、
恋人関係に発展することもなく、
ただ仲の良い友人といった関係でした。
ところが…
この仲の良い友人関係に、
終止符を打つ日が訪れたのです。
それも、
ある日突然に…。
♡
その日も、
会社帰りに彼女の家に立ち寄り、
彼女の子どもと遊んでいました。
その時です。
「パパ!」
子どもが叫んだのです。
びっくりして周りを見ましたが、
そこには京介さんしかいません。
子どもの目は、
まっすぐに京介さんを見つめていました。
♡
この子が物心ついてから、
近くにいた男性は京介さんだけ。
自分を可愛がってくれる京介さんを、
父親だと認識していたのでしょう。
これまで、
この子の父親になることなど、
全く考えていませんでした。
彼女と付き合うことも、結婚も、
特に望んではいませんでした。
ただ時々楽しい時間が過ごせるだけで、
彼は十分幸せだったからです。
いえ、この関係を壊したくなくて、
彼女を好きだという気持ちを、
無意識に封印していたのです。
しかし、
「パパ!」という思いがけない言葉に、
ハッとしました。
このままではダメだ。
ちゃんとこの子の父親になろう、
彼女を夫として支えていこうと、
固く決心したのです。
♡
実は彼女の方も、
彼のことが好きでした。
京介さんの優しさに触れるたび、
心が救われるような気持ちになりました。
離婚に至った辛い思い出も、
どんどん薄らいでいき、
いつの間にか思い出すことも、
なくなっていました。
でも、
バツイチ子持ちという事実に、
引け目を感じていたのです。
ですから京介さんと同じように、
この関係を壊すくらいなら、
このままがいいと思っていました。
♡
結婚披露宴での入場シーン。
新郎新婦の間には、
子どもの姿がありました。
片方の手で新郎の手を、
もう片方の手で新婦の手を、
しっかりと握り締めていました。
その幼く愛くるしいながらも、
どこか誇らしげな姿は、
まさしく愛のキューピットに見えました。
※本文中の内容は、
事実に基づくフィクションです。