人生で起こることは、
「偶然」ではなく「必然」だと、
よく耳にします。
人と人との出逢い、
特に新郎新婦の出逢いには、
神秘的なものを、
感じずにはいられません。
全く予期しない場所で、
結婚相手と出逢っている人、
本当に多くいらっしゃいます。
このケースもそうでした。
佳子さん(仮名)は、30歳。
会社では新人教育を担当するなど、
責任ある立場になってきました。
仕事に加えて後輩の指導をする日々は、
心身ともに疲労が大きく、
休日は一日中家に閉じこもり、
もっぱら食べることと寝ることで、
ストレスを解消していました。
ところが気になるのは、
最近ちょっと太り気味であること。
運動しないとヤバイな…と、
思い始めていました。
しかし、自分に甘い佳子さんは、
ジョギングやストレッチなど、
自分一人で黙々とおこなうものは、
続けられる自信がありませんでした。
そこで思いついたのは「水泳」
実は佳子さん、
高校時代には水泳部に所属しており、
県大会での優勝経験もあるほど、
優秀な選手だったのです。
高校卒業と同時にやめてしまいましたが、
水泳だったら続けられそうです。
そういえば家からそう遠くない場所に、
設備の整った大型のプールがあることを、
思い出しました。
とりあえず見学に行ってみよう、
そう思いました。
噂に聞いていた通り、立派な建物でした。
また泳げる!と、
高校時代を思い起こし、
ワクワクしながら建物に近づきました。
ところが…
「清掃のため本日休業」
という張り紙がありました。
あ〜あ、
せっかく運動する気になったのに…と、
がっかりしてしまいました。
また来週の休みに出直すしか、
ありません。
それまでに気が変わっちゃうかも。
そんな風に思いながら帰りかけた時、
女性から声をかけられました。
「あちらのテニススクールの者です。
見学していらっしゃいませんか?」と。
女性が指し示す方向を見ると、
通りを渡った向こう側に、
体育館のような建物がありました。
その建物の中に、
テニスコートがあるようです。
テニスに興味はありませんでしたが、
せっかくここまで来たのだからと、
その女性について行きました。
できたばかりの綺麗な施設。
みんな楽しそうにレッスンを受けています。
先ほどの女性だけでなく、
どのスタッフも親切で感じが良く、
丁寧に説明してくれました。
「体験レッスンもできますよ。
無料なのでいかがですか?」
テニスの経験は体育の授業だけでしたが、
もともとスポーツが得意な佳子さんは、
ちょっとやってみたいなという気持ちに、
なっていました。
「はい、お願いします!」
やってみると、
これが楽しい楽しい。
さらに、
「運動神経抜群ですね。
素晴らしいなあ〜」
と褒められ、
すっかりいい気分に。
「検討します」
と言うつもりだったのが、
「入会します」
とつい言ってしまったのです。
そして次のお休みから週一で、
通うことに決定しました。
♡
あの日から1年、
佳子さんは結婚式を挙げました。
新郎は、
あのテニススクールの、
インストラクターでした。
佳子さんはすぐに上達し、
スクールだけではなく、
プライベートでも、
彼とテニスを楽しむようになり、
自然と交際がスタートしたそうです。
おじいちゃんとおばあちゃんになっても、
ずっと二人でテニスを楽しみたい、
佳子さんは、幸せいっぱいの笑顔で、
そう話してくださいました。
ちなみに水泳は?
「結局行きませんでした」と。
♡
もしもあの日、
スイミングスクールが営業していたら、
二人は出逢っていなかったでしょう。
いえ、もしかしたら、
水泳を思いついたのも、
あの場所に行ったのも、
テニススクールで働く新郎と、
出逢うためだったのかもしれません。
運命のレールって、
どこに向かって敷かれているのか、
全くわからないものです。
※本文中の内容は、
事実に基づくフイクションです。