「運命の人は、
出逢ったその瞬間に、
わかるものだ」
などと言われることがあります。
しかし、
実際にはそのような人は希です。
出逢った時には、
印象が悪かった、
好みではなかった、
嫌いなタイプだった…
そんなマイナスイメージから、
恋に発展するケースは山ほどあります。
二度と会いたくない…
そこまで思った相手と、
結婚しちゃった人もいます。
郁男さん(仮名)は、
ある有名な運送会社の社員です。
入社してから5年、
配車の仕事に携わってきました。
つまり、
会社内での勤務でした。
しかし、
そろそろ結婚も考える年ごろ。
お相手はいませんでしたが、
将来に備えてもっと稼ぎたい、
そう思うようになりました。
そして、
労働の大変さは承知の上で、
内勤よりも給料の良い、
ドライバーを志願したのです。
その願いは受け入れられ、
郁男さんはドライバーとして、
勤務することになりました。
♡
そして迎えた、
記念すべきドライバー・デビューの日。
しかしその日は何と、
ゴールデンウイークの真っ最中。
当然のことながら、
道は渋滞しています。
これまで幾度か手伝いで、
トラックに乗ることはあったため、
初日ではありましたが、
助手なしの一人での走行です。
通常の渋滞と違い、
異常とも言える車の数。
到着のメドも、
全く立ちません。
お届け先はある有名デパート。
ゴールデンウイーク中ですから、
先方も交通事情は、
理解してくれているハズでした。
しかしながら、
ようやくたどり着いたのは、
予定から5時間も後のこと。
文句を言われることは、
当然覚悟していました。
♡
「何やってるのっ!」
「今、何時だと思ってるのっ!」
「幾ら何でも遅すぎでしょ!」
いきなり怒鳴られました。
もの凄い剣幕です。
その人は、
フロアーマネージャーの女性でした。
「手伝いなさいよね!」
有無を言わせず、
バックヤードに連れて行かれ、
本来やるべき仕事以上のことを、
手伝うはめになってしまいました。
♡
仕事を終えた郁男さんは、
ぐったりしていました。
ゴールデンウイーク中なんだから、
渋滞は分かっていたハズ。
延着も了承していたハズ。
それなのに…
何もあんな言い方しなくたって。
帰りも渋滞に巻き込まれながら、
考えるのはマイナスなことばかり。
「何でドライバーなんて、
志願しちゃったんだろう」
「よりにもよって、
ゴールデンウイークが初日なんて」
「あのデパートは、
もう絶対に行きたくない」
「あの女性にだけは、
もう二度と会いたくない」
♡
それから1週間後、
配送先はあのデパートでした。
それも、
あのフロアの荷物でした。
嫌だ嫌だと思っていると、
悲しいかな、
現実になってしまうものです。
しかし、
仕事なので仕方ありません。
「あの女性がお休みだといいな…」
そんな淡い期待を抱きながら、
デパートへ向かいました。
ゴールデンウイークが明け、
今日は予定通りに到着できました。
ちょっとホッとはしましたが、
前回のことを蒸し返して、
きっと怒鳴られるだろうと想像し、
気分は相変わらず重いままでした。
とりあえず怒鳴られる前に、
謝ろう…そう思いました。
♡
休みだったらいいのに…
という淡い期待は叶わず、
やはり対応したのは、
あの女性でした。
そして顔をあわせるなり、
「先日はごめんなさい!」
そう謝りました。
でも…
謝ったのは郁男さんではなく、
何と彼女の方だったのです。
♡
ゴールデンウイークといえば、
デパートにとって繁盛期。
忙しさで大変だったところに、
荷物が遅れて届き、
イライラが爆発してしまったとのこと。
彼女はあの日以来、
そのことをずっと気にしていて、
次に会ったら謝ろうと思っていたそうです。
「何だ、
いい人だったんじゃないか」
♡
郁男さんと、
5歳年上の彼女は、
仕事で顔を合わせるごとに、
親しくなっていきました。
そして、
初めて会ったあの日から、
ちょうど2年後、
お二人は入籍しました。
♡
出逢った瞬間に、
何も感じることはなくても、
たとえマイナス印象であったとしても、
もしかしたら運命の赤い糸は、
繋がっているかもしれません。
運命の人、
あなたは見逃していませんか?
※本文中の内容は、
事実に基づくフィクションです。