新郎のことが、
気に入らないわけじゃない。
結婚に、
反対しているわけでもない。
でも、
何故か意固地になってしまう。
そんな母親の頑な心を、
解きほぐす方法は、
コレしかありませんでした。
司会打合せに、
ご両親が同席される方も、
珍しくありません。
新郎新婦のことが心配なので、
側で見守りたい。
披露宴のことを、
事前に把握しておきたい。
大歓迎です。
しかし、
全てが良い雰囲気で、
打ち合わせ出来るかといったら、
決してそうではないのも事実です。
なんとなく漂ってくる、
不和の香り…。
♡
あるご披露宴の打ち合わせ。
ご両家ともにご両親が、
同席されました。
そして、
新婦側のお母様だけが、
全てのことに対し、
事細かに意見を出されました。
それはそれで、
行き違いなどを防ぐ意味でも、
とても有り難いことではあります。
しかし、
とても困ったことが起こりました。
それは、
披露宴のクライマックスシーン、
「両親への花束贈呈」に、
話が及んだ時のことでした。
新婦のお母様は…
「うちは花束なんかいりません!」
「やりたいなら、どうぞご自由に!」
「うちはいらないので、
そちらだけでやってください!」
「手紙?
そんなものは必要ありません!」
取り付く島もありません。
新婦よ、
どうして黙っているのだ…?
非常に困りました。
両家の間に、
どのような事情があるのか、
一切わかりません。
というか、
お聞きできませんし…。
いくら何でも、
「花束贈呈は新郎側だけ」
という訳にはいきません。
結局、
「花束贈呈は両家とも無し」
という形で打ち合わせを終えました。
しかし、
どうにも釈然としません。
♡
その夜、
新婦に電話をかけました。
多くは語ってくださいませんでしたが、
結婚に反対している訳でも、
新郎のことが気に入らない訳でも、
なさそうなのです。
新郎も新婦も、
「花束贈呈」はおこないたい、
それが本心だということがわかりました。
「やりましょう!」
そう申し上げました。
「でも…」
躊躇する新婦を何とか説得し、
準備を進めることにしました。
♡
当日、
お嬢様の花嫁姿を見ても、
お母様は、相変わらずでした。
開宴して間も無く、
カメラマンさんから、
「ちょっと…」と、呼ばれました。
会場の外に出るといきなり、
「新婦のお母様、何かあった?」
と、聞かれました。
「どうしたのですか?」
と尋ねると…
「撮影を頼んだのは新郎側だから、
新婦側は絶対に撮らないで!」
そう言われたとのこと。
さらに、席次表を見せて、
「ここは新婦側の席なので、
このラインからこっちには、
入ってこないで!」と、
ご丁寧な説明を受けたのだとか。
新郎側のお客様だけを撮るにしても、
このラインから入るなと言われたら、
撮影自体ができない…と、
カメラマンさんも、かなり困っていました。
それに、
出来上がったビデオや写真の中に、
新婦側のものが1枚もなかったら、
きっと又それはそれで、
クレームになりかねないと、
心配しています。
キャプテンとも協議の結果、
だましだまし撮る、
怒られたら、
「あっ、すみません」と、
とぼけつつ撮る、
そうすることに決め、
カメラマンさんには、
多大なるご尽力をいただきました。
ビデオ・写真撮影の件では、
「こっちに、はみ出している」と、
ビデオのコードを蹴飛ばされたり、
何度も怒られたりしたようですが、
それでも何とか、
披露宴は滞りなく進行していきました。
♡
そしていよいよ花束贈呈シーン。
花束贈呈のアナウンスを入れたら、
きっとお母様は席をお立ちくださらない、
そう予測し、
花束贈呈の件には触れず、
ご両家ご両親には、
ごく普通の雰囲気で、
会場の後ろにお並びいただきました。
新郎新婦も、
ごく普通に高砂席を降りました。
打ち合わせでは、
そのままご両親の元へ進み、
謝辞につなげるという段取りです。
しかし…
♡
会場が暗くなり、
BGMがかかり、
新婦が手紙を読み始めたのです。
突然の出来事に、
お母様は抵抗することもできず、
ただただ新婦を見つめていました。
そしてほどなく、
お母様の目からは、
ポロポロと涙が溢れ出したのです。
産んでくれたこと、
育ててくれたこと、
結婚を認めてくれたことへの、
感謝の気持ち…。
お父さん・お母さんのことが、
大好きだという気持ち…。
これから精一杯、
親孝行をしていきたいという気持ち…。
とても短いお手紙でしたが、
少ない言葉の中に、
新婦の想いが、
ぎっしりと詰まっていました。
花束…
受け取ってくださいました。
そしてその時、
お母様の口が、
「おめでとう」と、
動いたように見えました。
♡
お開き後のお母様は、
まるで憑き物が落ちたかのように、
柔らかく優しい笑顔を、
見せてくれました。
お母様はきっと、
お寂しかったのでしょう。
その寂しさを、
悟られないようにと、
虚勢を張っていたのかもしれません。
ちょっと強引ではありましたが、
花嫁の手紙も、
花束贈呈も、
無事おこなうことができました。
新婦の想いを、
お母様に受けとめていただくことができ、
本当に良かったと思います。
♡
一生に一度の大切な日、
やり直すことはできません。
ですから、
あなたの想いは、
ちゃんとその日に伝えて欲しい…
そう私は思います。
「やらないで…」
そうおっしゃっているご両親も、
もしかしたら心の中では、
あなたのお手紙を、
待っているかもしれません…。