結婚披露宴の、
クライマックスシーンといえば、
多くの人が、
「ご両親への花束贈呈」を、
思い浮かべることでしょう。
花嫁が感謝のお手紙を朗読し、
花束贈呈へ…。
司会者という立場の私でも、
感動し、涙が溢れることもしばしば。
ですから、
親しいお付き合いがある方なら、
なおさらのこと。
普段は厳しい上司が、
上を向いて懸命に涙をこらえていたり…
仲の良いご友人たちの目から、
とどめもなく涙が溢れ出していたり…
手紙を読む新婦の隣で、
新郎の方が大泣きしていたり…
「絶対に泣かない!」と、
豪語していたお父様が、
声を上げて泣いていたり…。
この瞬間に立ち会うことができ、
本当に良かったと思える、
とっても素敵な感動シーンです。
暗い会場の中、
スポットライトが当たり、
新婦はお手紙を読み始めました。
一生懸命に想いを伝えようと、
一言一言を大切に、
そして、涙をこらえながら読んでいました。
会場からは、すすり泣く声も聞こえています。
その時でした。
突然、
美しいBGMのメロディーとは別に、
水戸黄門の主題歌「あゝ人生に涙あり」が、
鳴り響いたのです。
♪人生楽ありゃ、苦もあるさ〜♪
そうです。
それは、携帯電話の着信音でした。
会場にいる全員を驚かせた、
持ち主がとった行動とは?
「はい、もしもし〜」
出ちゃったんです、その電話に…。
親戚の叔父様でした。
「うん、オレオレ。」
「今〜?」
「うん、結婚式の最中。」
「なんか、
嫁さんが手紙かなんか読んでるとこ。」
「うんうん、そうそう、
花束贈呈とか言ってたな」
「えっ?
なんか電波悪いんだか、
よく聞こえねえんだよな。
音楽かかってるし、喋ってるし。
こっちの声は聞こえてるかあ?」
「そうか、なら良かった」
:
見かねた隣の席の人が、
電話をやめるよう、
ジェスチャーで促す。
「わかってるよ、うるさいなあ〜」
「あーイヤイヤ何でもない。こっちの話。」
:
(中略)
:
「結婚式って、
なっげーんだよ(長いんだよ)。
おー、多分、時間的には、
もうそろそろ終わると思うんだけどよ。」
「えっ?泊まらないよ。
今日、帰るよ。
飛行機じゃなくて、新幹線で帰る。」
「多分もう終わるから、余裕で間に合う」
「うん、悪いな、
まあ、そういう事情だから、
とりあえず切るわ。」
「いいよ、いいよ、
終わったらこっちから掛け直すから。」
「うん、それじゃあまた後で」
その時にはもう、
新婦手紙も、花束贈呈も済み、
新郎父の謝辞になっていました。
♡
悔しかったです。
この人の電話を止められなかったこと。
この男性の大きな声と戦いながら、
一生懸命お手紙を読んでいた新婦が、
かわいそうでなりません。
新婦の声に集中しようと必死でしたが、
どのような内容だったのかさえ、
全く頭に入ってきませんでした。
きっとほとんどの出席者が、
同じだったことでしょう。
そのかわり、
男性のちょっと訛りが入った話し方、
声の大きさ、喋った言葉は、
今でもはっきりと覚えています。
♡
携帯電話については、
マナーモードの設定を、
あらかじめお願いしていますが、
どうしても一人くらいは、
鳴らしてしまうものです。
しかし、多くの場合、
すぐに着信音を消すか、
あるいは、
急いで会場の外に出るか、
どちらかの行動をなさいます。
しかしこの男性は、
大声で会話を続けていたのです。
「そういう事情だから…」と、
電話の相手におっしゃっていましたが、
そういう事情だとわかっているなら、
出ないで欲しかった…。
せめて電話の着信が、
あと10分遅かったら…と、
残念でなりません。
♡
さらに言わせていただければ、
赤文字の部分は「忌み言葉」です。
結婚式・披露宴の場では、
使ってはいけない言葉とされています。
その忌み言葉を、よりにもよって、
新婦のお手紙朗読に重ねるなんて…。
♡
ついうっかりしてしまう、
マナーモード設定。
しかし、
もし忘れてしまっていたとしても、
大人の対応をお願いしたいものです。
※本文中のエピソードは、
事実に基づいたフィクションです。