紙一重

人によって物事の捉え方は様々。

 

そして、
同じことを言われたり、
同じことをされたりしても、
嬉しいと思うか、
イヤだと思うか、
それは相手によりけり。

 

一歩間違えたら…と思うような、
危険な橋を渡る人も、
意外と少なくありません。

正昭さん(仮名)は、
都心の大きな駅近くにある、
大企業のサラリーマン。

 

毎日、必ず同じ時刻の電車に乗って、
通勤しています。

真面目?
几帳面?
確かにそうかもしれません。

 

しかし、
同じ電車に乗る理由は、
別のところにありました。

 

半年ほど前、
電車の中で見かけた、
一人の女性がきっかけでした。

 

どちらかといえば、
地味なタイプの女性でしたが、
何となく気になったのです。

 

そう、何となく…です。

 

次の日偶然、
同じ時刻の同じ車両に乗り込むと、
そこには前日気になった、
あの女性の姿もありました。

 

それからは意図的に、
同じ電車に乗るようにしてみると、

次の日も、
また次の日も、
その女性と会うことができました。

 

憂鬱だった通勤ラッシュの中に、
小さな楽しみが生まれたのです。

 

少し離れた場所から、
ただ彼女を眺めているだけでしたが、
正昭さんにとっては、
それだけで十分幸せでした。

 

下車駅も同じだったため、
一緒に電車を降り、
人混みに消えていく後ろ姿を見送るのが、
日課となりました。

 

しかし、
人間の欲望というのは、
次第に大きくなっていくものです。

 

彼女と話したい、
一緒に食事をしたい、
遊びに行きたい…
そんな願望が高まっていったのも、
自然なことでしょう。

 

そんな中、
正昭さんは一大決心をし、
有給休暇を取りました。

 

そしていつも通りの電車に乗り込み、
いつも通り下車しました。

 

違うのはそこからです。

 

その日は後ろ姿を見送らず、
何と彼女を尾行したのです。

 

会社を突きとめました。

退社時間に待ち伏せをしました。

偶然を装って声をかけました。

 

「あっ、こんばんは。
 僕のことわかります?」

 

「電車でよく一緒になりますね」

 

「今、お仕事帰りなんですか?

 

「この近くにお勤めなのですか?」

 

さらに、
言ってしまいました。

 

「もしよかったら、
 このあと食事にでも行きませんか?」と。

 

彼女は、
当然のことながら、
ちょっと驚いたような顔をしていました。

 

ところが何と!
そのあとすぐに、
「いいですよ」と応えてくれたのです。

 

そりゃ半年間も、
毎日毎日見つめられたら、
よほど鈍い人でも気がつきます。

 

イヤなら車両を変えます。

 

つまり彼女も、
彼のことが、
ずっと気になっていたのです。

 

彼に会うために、
毎日同じ電車に乗っていたのです。

 

それからわずか3ヶ月後、
二人はチャペルにて、
永遠の愛を誓いました。

 

正昭さんは、
「はっきり言ってストーカーでした。
 さらにナンパまでしたんです。」

照れくさそうに、

しかしキッパリと話してくれました。

 

二人は結婚後も、
同じ時刻の、同じ電車で、
仲良く通勤を続けるそうです。

 

  ♡

 

警察に駆け込まれなくて良かった。
相手も好意を寄せてくれていて、
本当に良かった。

 

ご縁って不思議なものだと、
いつも思います。

 

しかしながら、
うまくいったのは、たまたまです。
この二人だったからこそです。

 

くれぐれも、
真似などなさいませぬように…

 

また女性の皆さまも、

十分お気をつけくださいませ。

 

※本文中のエピソードは、
事実に基づいたフィクションです。