会場選びの難しさ

披露宴会場を選ぶとき、
そのポイントの一つに、
「お料理」が挙げられるでしょう。

 

お客様にとっては、
お美味しいお食事も楽しみの一つ。

 

ですから、
お料理に重点を置く人が多いのも、
頷けます。

 

多くのホテルや結婚式場では、
ブライダル用の試食会も、
おこなわれています。

 

専門店ならではの、
美味しいお料理を、
召し上がっていただきたい、
そんな想いから、
レストランでおこなう披露宴、
「レストランウエディング」も、
とても人気があるようです。

 

しかし、
お料理だけに目がいってしまうと、
思わぬところで、
出席者に不満を与えてしまうことも。

 

こんなところにも、
注意が必要なんです。

佐藤さんは、一部上場企業の社長です。

 

社員数も多く、
全社員の結婚式に出席するのは、
スケジュール的にも不可能に近い。
出席できる場合とできない場合があると、
不公平になってしまうと考え、
社員の結婚式には全て「欠席」すると、
公言していました。

 

しかし、
今回は特別でした。

 

10年以上にわたり、
片腕とも言えるほどの働きをしてくれた、
秘書の友美恵さんが、
結婚することとなったのです。

 

友美恵さんには、
これまで結婚願望がなく、
仕事一筋で定年まで頑張っていきたいと、
社長からのお見合い話にも、
全く興味を示しませんでした。

 

ところが、

やはり結ばれるべき人とは、
結ばれるようになっているものです。

ひょんなご縁から、
あっという間に結婚が決まり、
寿退職する運びとなりました。

 

退職はとても残念ではありましたが、
その理由が結婚であれば、
嬉しくないはずはありません。

 

社長秘書の結婚披露宴であれば、
社員の反感も買わないだろうと、
特例として出席することに決めました。

 

当日は奥様とご一緒に、
娘を送り出すご両親のような気持ちで、
披露宴会場に向かいました。

 

会場はイタリアンレストラン。
友美恵さんが新郎と初めて会った、
思い出の場所でもありました。

 

披露宴会場として使用されたことは、
これまで一度もありませんでしたが、
新郎が懇意にしている関係で、
快く承諾してくれのだそうです。

 

いつも何事にも、
余裕をもって行動される佐藤社長。
この日も早めに家を出発し、
会場に到着したのは開宴40分前でした。

 

しかし、
そこには控え室がなかったのです。

 

東京都内でありながら、
自然に囲まれたシチュエーション。

 

当然、駅からも離れており、

周りにはお茶を飲むようなお店は、
一件も見当たりません。

 

季節は冬。

 

冷たい木枯らしの吹く中、
早く到着した人は、
みんな敷地内のガーデンにいました。

 

挙式は別の場所で執り行われ、
新郎新婦は挙式後に、
ご両親・ご親族と共に、
車でこのレストランに、
向かうことになっています。

 

開宴10分前。
新郎新婦の到着予定時刻になり、
やっと寒さから解放されると思いきや、
挙式の都合か、交通事情か、
新郎新婦はまだ現れません。

 

ご両親とご親族を乗せた車が到着したのは、
開宴予定時刻から20分が過ぎた時。

 

それを合図に出席者は、
ガーデンの入口から店へと続く、
レッドカーペットの両サイドに並び、
新郎新婦を迎える準備を整えました。

 

そしていよいよ、
ガーデン入口手前で車を降りた新郎新婦が、
みんなの前に姿を現しました。

 

レッドカーペットの上をゆっくりと歩き、
幸せいっぱいの表情を見せる新郎新婦。

 

一方、長い時間外で待っていた出席者は、
拍手する手も、凍えて痛いほどでした。

 

暖房の効いた、
温かな室内に入ることができたのは、
社長ご夫妻が到着してから、
1時間20分後のことでした。

 

    ♡

 

このご披露宴に出席しなかった私は、
後日、佐藤社長にお目にかかった際、
この日のことをお聞きしました。

 

大変お怒りのご様子で、
「私だけでなく、
 全ての出席者に失礼だ!」
そうおっしゃいました。

 

仕事は完璧である友美恵さんだからこそ、
余計に、お怒りの気持ちが、
強かったように感じられました。

 

そして、
せっかくのお料理も、
友美恵さんの花嫁姿のことも、
特に印象に残らなかった…と、
残念そうにおっしゃっていました。

 

   ♡

 

レストランウエディングは初めて…
そのようなお店を選ばれる時には、
出席者への配慮が必要です。

 

お店の人に婚礼経験がない場合、
あらゆる面で、不備が予測されます。

 

新郎新婦ご本人の、
細やかな心配りが必須です。

 

それに比べて、
・経験が豊富
もしくは、
・企画会社などが介入している
そのようなところは、
万全の体制を整えてくれることでしょう。

 

   ♡

 

佐藤社長は、
友美恵さんのことが話題にのぼると、
必ずこの披露宴の話、
それも、
寒い中外で長時間待ったという思い出を、
繰り返しお話されていました。
数年間に渡り…。

 

   ♡

 

せっかくなら、
凛々しい新郎の晴れ姿や、
素敵な花嫁姿、
楽しかったご披露宴の様子などを、
思い出して欲しいものです。

 

そのための第一歩、
「会場選び」と、
ご出席者への細やかな心配りが、
とても重要だということを、
覚えておいていただけたら幸いです。

 

※本文中のエピソードは、

   事実に基づいたフィクションです。

   登場人物も、全て仮名となっております。